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最高裁判所第一小法廷 昭和36年(す)265号 決定 1961年11月30日

主文

本件請求を却下する。

理由

本件請求理由の要旨は、(一)中山開雄は、昭和二〇年八月一九日第六軍臨時軍法会議において、用兇器上官脅迫、上官侮辱、上官殺予備、上官殺未遂の罪により懲役一五年に処せられたものであるが、右のうち上官侮辱の罪については、昭和二一年一一月三日勅令五一一号大赦令により赦免がなされた結果、刑法五二条にしたがい大赦を受けないその余の罪につき刑を定める必要を生ずるに至った。(二)ところが、右刑を定むべき裁判所に当る第六軍臨時軍法会議の後継裁判所として昭和二一年五月一七日勅令二七八号附則五項に基き指定された東京地方裁判所については、ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件の廃止に関する法律二項により、同法施行後一八〇日の経過とともに右勅令が失効し、後継裁判所たる法令上の根拠を失ったため、結局右中山に対しては、刑法五二条による刑を定むべき管轄裁判所が法令上存在しないこととなった。よって、刑訴一六条にしたがい、右管轄裁判所の指定を請求する、というのである。

東京地方裁判所を以て第六軍臨時軍法会議の後継裁判所となす根拠たる右勅令二七八号が、ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件(昭和二〇年勅令五四二号)の廃止に関する法律二項により、同法施行の日(昭和二七年四月二八日)から一八〇日の経過により失効するに至ったことは所論のとおりである。しかし、同法三項は「この法律は、勅令五四二号に基く命令により法律若しくは命令を廃し、又はこれらの一部を改正した効果に影響を及ぼすものではない」と規定しており、この規定は、同法二項によって失効する命令が法令を廃止しまたは改正したものである場合には、右命令が失効しても、法令の改廃に由来する既成の効果を動かさないという趣旨と解すべきである。これを本件について考うれば、前記昭和二一年勅令二七八号によって廃止された陸軍軍法会議法等は、右勅令の失効によって復活するものではないと同時に、陸軍軍法会議法等の廃止にあたり、その経過措置として軍法会議の後継裁判所を指定した措置もまた何らの影響を受けることなく、その効力を維持するものと解すべきである。従って、東京高等裁判所昭和三一年(く)一号同三一年六月三〇日第八刑事部決定(同裁判所判決時報七巻七号二六九頁)のこの点に関する判示は失当であって、本件については東京地方裁判所が第六軍臨時軍法会議の後継裁判所として管轄権を有するのである。されば、本件請求は理由がないといわねばならない。

よって裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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